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ワイルドスワンとマオ [書の抽斗]

  全人代の閉会に伴い温家宝首相が行なったスピーチの中に、『文化大革命が再び起こる恐れが
ある』という気になるくだりがありました。

二十年前、鄧小平が唱えた『南方講話』から始まった中国改革開放路線。ドッグイヤーの如く恐ろし
い程のスピードで発展を遂げてきた中国。その中国でこの秋トップの交代があります。胡氏から習氏
へとバトンタッチです。この大きなイベントを前に何やら連日、共産党指導
部内の権力闘争のニュース
が報じられていますが、クーデターでもなく円満な引き継ぎであるはずなのにいったいどういう事なの
でしょうか?

簡単に言うと指導部が交代する時、権力闘争はオマケのように付いて来るんです。共産党最高幹部
入りを目論むお偉いさん同士でのにらめっこです。今回のは太子党 vs 共青団。
今度国家主席になる習近平さんは太子党と言って、元共産党最高幹部の子息達らのグループ出身。
方や共青団(共産主義青年団)はエリート人材を輩出するための党の青年組織だそうです。この両者
別にイデオロギーや政策で集まったグループではないだけに、イマイチ両グループの対立の構図が
良く見えません。要するに限られた椅子を巡って権力争いする、どこの国にもあるやつですかね。

今回の重慶直轄市での一連の騒動は、太子党の現職市長の更迭で幕引きの様相ですが、水面下
できっとくすぶり続けるんでしょう。権力闘争がない中国などありえませんが、今回の闘争はあの
毛沢東時代を彷彿させているようで、権力闘争は民衆を巻き込んで勝利すると言う、とんでもない
方程式が再び登場すまいかと危惧した温家宝首相が、ビンボール並みの牽制球を投げたという事
ですね。

賄賂や汚職、貧富の格差など民衆の中国共産党に対する怒りは危険レベルをとっくに超えている
はずですが、あの1966年からの10年間と違ってどうやら穏便に事が収まりそうです。


さて、毛沢東さんの名が再びチラホラと登場し出した中国なんですが、中学・高校の歴史で習った
くらいの意識でしか彼の事は知る由もありませんでした。
しかし、ユン・チワンという中国人女性作家の著書と出会って、毛沢東と言う人物の詳細なまでの
事柄を知ることになります。

彼女は四川省生まれで、共産党幹部を両親に持った現在は英国国籍の作家で、1980年代に出版
された『ワイルドスワン』が全世界で1,000万部を超える一大ベストセラーとなり、一躍脚光を浴びる
ことになります。祖母の時代からの生まれ故郷での話から、迫害を避けてイギリスに渡るまでの波乱
万丈な人生のノンフィクションです。

その中でも文化大革命に関する部分の描写は克明で、大切な両親をこの革命によって亡くすと言う
悲劇も含まれています。ですから彼女が抱く毛沢東への憎悪は計り知れないものとなり、長年に
亘るリサーチの結果、上下巻合わせて千ページを超える大作『マオ 誰も知らなかった毛沢東』を
2007年、再び世に送り出すことになりベストセラーとなります。

毛沢東の生い立ちの部分だけ見ていると、農家に生まれた勉強嫌いのタダの怠け者が、大国の
元首にまで上り詰める姿が私の中ではいかにも『中国らしく』、また、民衆を匠に迎合させた彼の
政治手法はどこか、あのヒトラーと類似しています。もう一つ是非付け加えるならば、二人が頂点へ
と上り詰める過程であまりにも多くの尊い命が奪われたと言う事実です。

二冊とも非常に読み応えのある著書で、特に『マオ・・・・」は一ページずつギッシリと活字が詰まった
長編大作なので、興味ある方はきっと引きずり込まれてしまうでしょう。


最後に、この秋の中国国家首席と党指導部の交代が穏便に遂行されるよう祈りたいものです。


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