十数年前になるでしょうか、地球の歩き方を片手に一人でシリアへ行ったことがあります。
今回、日本人ジャーナリストが凶弾に倒れたニュースを見ていて、あのシリアがとんでもない
ことになってしまったんだと、甚だ残念でなりません。

日本からパリを経由して首都ダマスカスへ入るのですが、当時、運悪くエア・フランスが大規模
ストライキをしていて、遅れ遅れと、慣れない管理職の機内サービスで、空港に着く頃には疲労
困憊していました。ただ、同乗の乗客の殆んどが白人だったので、なんとなく安堵感に包まれ
ながら入国審査場へと向かうことはできました。

しかし、その安堵感も束の間、あちこにAK47を肩からぶら下げた兵士の姿を見た途端血の気が
ス~っとひくのが解ります。入国ビザは予め東京のシリア大使館で取得してましたので、入国
審査は意外と簡単に進み、その流れで税関検査もスムーズに行くもんだと高をくくっていました。

私の前の白人男性の荷物検査がやたら執拗で、それを見ているとだんだん引き返したくなる
衝動に駆られて来ます。どうやら手荷物のラップトップ(当時はそう呼んでましたね)を取り上げ
られながら押し問答を繰り返していました。どう見ても没収するぞという意気込みの係官と、
どうしてもそれを阻止しようという白人男性の白熱したバトルでした。

そうこうする内、軍配は白人男性へと上がり、いよいよ私の番がやってきました。
どこから来たのかとお決まりの第一声に、ジャパンという答えと同時にパスポートを手渡します。
不思議と何をしに来たかとは聞かず、ラップトップはあるのかと、その代わり聞いてきました。
勿論持っていないと答えると、一寸の沈黙の後あっさりパスポートを返してくれ、顎を出口の
方へしゃくって、もう行けと言う合図です。

おお~、ビビッたぜ。本当にラッキーだわ。
コンパクトカメラをチラ見してたけど、そんなに高価なもんじゃあなかったのが幸いしたか!?
旧ソ連製VEGAという車種のちっこいタクシーに乗り込んで、宿泊先のシェラトンホテルへと
ようやく向かいます。当時このホテルがダマスカスでは一番豪華で安心だったようです。
だからホテルの構えとタクシーがアンバランスで、何だか滑稽でした。

イスラムの国にあって、このホテルの中はいささか治外法権的要素で充満していました。
つまりアルコールや様々な食肉が供されていたと言うことです。
そして、地政学上ユダヤ教やキリスト教と背中合わせであるため、イスラムの原理的な匂いは
あまりして来なかったような気がします。一日5回ほど聞こえてくるコーランの時以外は...。

この日は移動の疲れもあってか、ホテルから一歩も外へは出ることはなかった分、部屋では
じっくり地球の歩き方とにらめっこで、翌日フリーの市内観光に備えることにしました。
この時はまだ、次の日にこんなことが起ころうとは微塵も予測がつかなかったわけで、得意の
お子ちゃま就寝となったのでした。

今更ではありますが、シリア旅行を題材にしようと思ったのは、今回の事件で皆さんが抱く
シリア像というものが、何の罪も無くこの内戦に巻き込まれ、傷つき、そして命まで落として
いった『あの、陽気な親日のシリアの人々』の思いとは裏腹に、真逆のの方向へと転換して
しまった、その名誉挽回の欠片にでもなればと思い立ち、記事にすることにしました。
一寸だけお付き合いください。

なお、先ほど書きましたコンパクトカメラは持参していましたが、場所が場所だけにあまり
勝手にパチパチやらない方が賢明と考え、ごく限られた場所だけ撮影しました。残念ながら
その殆んどは(とは言っても本の十数枚程度です)現地の人が好意で私を映してくれたもので、
今回のアップは見送ることにしました。悪しからずご了承の程を...。