昔、北京へ行った時のお話です。王府井(ワン・フー・チン)という目抜き通りですら
所々舗装されていなかった時代で、一本通りを外れるだけでそこにはローカル色豊か
な地元民の生活がありました。あちこち家々の軒先で練炭七輪を使って中華鍋を振って
いる情景です。

一方、在したホテルはその当時では最高級だった『王府井パレスホテル』で、豪華な
大理石がちりばめられた重厚なロビーが印象的でした。ですからホテルと外の世界の
あまりにも大きなギャップに馴染むのに、少々時間がかかったのは言うまでもありません。

その王府井にそこそこ大きい国営デパートがあり、土産物や漢方薬なんかを安く買い
求めるのには最適でした。確か一階にあった漢方薬のコーナーで、つたない普通語を
屈指しながら、愛想の欠片も無い店のお姉さんとやり取りしている時でした。

言葉がうまく通じないのとあまりの無愛想さにストレスを感じ過ぎたのか、急にお腹が
痛くなって催してしまいました。急いで勘定を済ませ『トイレは』と、彼女に尋ねると、
『奥だよ』と言わんばかりに顎をその方向に向けてしゃくるではありませんか。

『チッ』と舌打ちをするも、一目散に目的地へ到着し中へ入った時でした。

     無理、無理、絶対に無理!!

高校以来式から遠ざかっていた私には、この状況下で、しかも究極の選択であっても
あっさりNGを出さざるを得ないほど、中国の和式は完全にだめだったのでした。
冷や汗をかき続けながら何とかせねばと焦っていると、脳が『ホテルへ帰ったらどうだ』と
呟くように助言します。

     そうか、その手があったわ!!

身体は既に反応済みで、気が付けば内股小走りに、しかし、大臀筋や括約筋等あらゆる
関係各所の筋肉を硬直させながら、およそ500mはあろうかという、ホテルロビー迄の
なが~い道のりをひた小走るのでした。

見飽きたドアマンの機械的な愛想笑いも、この時ばかりは天使の微笑みにしか見えず、
絢爛豪華なウェスタンスタイルに沈み込んだ瞬間のあの何とも言えない感情と表情は、
皆さんのご経験からも簡単に想像していただけることでしょう。


ところで皆さん、『漏れない.com 』をご存知でしょうか?
前振りが長すぎましたが、スマホをお使いならばこれがトイレ検索ソフトだと直ぐに
お分かりいただけたはずです。前述の私の様な状況でこのような便利なもんがあれば
と、ご存じない方はそう思われたでしょう!?

このソフト、そんな時の為だけではなく、化粧や御髪直し、おむつ交換や子供の急な
トイレコールなど、ありとあらゆるトイレニーズに、設備内容紹介付で最寄りのトイレを
簡潔なユーザーインターフェイス上にて検索してくれるのだそうです。

一分一秒、一刻を争う状況下で、果たして冷静にこのアプリを使い熟せるかという素朴
な疑問も浮かびますが、見知らぬ場所での場合は非常に強い味方となるんではないで
しょうか。

私個人的に、ネーミングはドット・コムではなくて『ドット・JP』にして欲しかったなぁ。
JPの読みは少々変わりますがネ...。