あんなキャプテンの顔を見たのは恐らく、中三最後のビッグイベントだった近畿大会準決勝
以来かもしれない。そうだ、私が風邪をひいて39度近い熱を前夜から出して出場したから忘れ
もしない。

4対4で引き分け抽選。キャプテンが外れくじを引いた直後の顔だ。みんなもうつむく。『おまえが
ゴールキックを蹴ってれば...』と、恩師は今でも酒が入ると私にそう言う。あの時は本当に
フラフラでそれどころじゃなかったのに。でも、ど真ん中からだったから、目をつむってても成功
してただろう。結局、唯一のトライをし、キッカーでもない息の上がったキャプテンに最後はお鉢が
回って来て....やっぱり外した。申し訳ない事をしてしまったと、今回の旅で改めて謝罪する。

 

 

特攻服のおばちゃんは2・3年前に店をたたんでしまったそうだ。でも、いまでもたまに市場へ
顔を出すらしい。特攻服のままであって欲しいと願う。大阪弁のケッタイなおっさん二人がくれ
ぐれも宜しく伝えて欲しいと、お姉さんにお願いして市場を後にする。Mission Complete、
これで本当の『店』。

さあ、気晴らしに函館山へ登ろう、と市電に乗りゃあいいものを、腹減らしと夜風に当たろうと
いうことになり、結局ロープウェー乗り場まで、人っ気のない広い道を結構なペースで歩いた。
呆気なく短期間で結末を迎えたものだから時間はたっぷりあった。そして距離も...。

十間坂でようやく人間とすれ違い、乗り場で人の列を見た時は本当に嬉しかった。久し振り
の晴れ間、多くの観光客でごった返していたのだ。シンガポールや韓国から大勢やって来てた。
キャプテンが展望台ですれ違いざまにご婦人と接触したら、『Sorry』と言われたらしい。妙に
感激していた。なぜだかわからない。


 

ではびっくりついでに、二人で写真を撮ってもらおうと両隣のどちらにお願いしようかと思案
していたら、『左は和で右は横文字やで』とキャプテンが言う。だったらと、わざと横文字を選んで
流暢にお願いし、その後少々会話をして別れた。『格好、エエやん』とキャプテン。どや顔で返す。


 

キャプテンの涙雨がポツリと来て、お腹もペコリとなったので、残念会を催しに町へ繰り出す。
ホテルからほどない所にある地元サラリーマン御用達の店『魚一心』へ活イカの刺身目当てに
突入する。キャプテンがどうしても『ロ』が食べたかったとか。旬ではないのでサイズも小振り
ゴロも小振り。しかし、透明のイカ刺しは実に美味しい!

店の看板娘を前にカウンターでシコタマ飲んで食べて上機嫌。本当に海鮮が豊富な土地だわ。
大喰いのキャプテンが最後に頼んだ卵焼きが関東風に甘く、殆ど手を付けないので、温かい内
にと思い、隣の客人によかったらとお裾分けする。大変喜んでくれて暫し歓談し、流れは自ずと
食後の話へ行く。卵のお礼だと言ってご丁寧に名刺の裏に紹介状を書いてここへ行ってみてくれ
と言われた。有り難い話ではないか。

我々も丁寧に礼を言って店を後にし、函館の夜を満喫すべくタクシーを五稜郭方面へと走ら
せた。金曜の夜というのに飲み屋街はひっそり静まり返っている。函館も多分に漏れず不景気
だわ。案の定、紹介された店にはたった一人しか客が居ない。しかし案ずることなかれ、ここは
福の神参上だ。直ぐにいっぱいになるからと、お姉さんを安心させ最初のグラスを空にしようか
という時だ。次から次へ常連さんらしき客人が入店して来るではないかいな。ほら、やっぱり
でしょ!

お姉さんたちビックリでママさんほくそ笑む。これでまたキャプテンが手柄を二分しに来るかと
待ち構えてたのに肩透かしを食らう。気が付けば傍に居なかったので、てっきりトイレかと思い
きや、聞き覚えのある声が『函館の女』を唄う。これ、やってみたかったんだね、ャプテン!!

こうして五稜郭の夜はすぐに更けて行く。