お見舞いでも滅多にご縁のない秘密の部屋と思しきICUで貴重な体験をしました
印象としては機械や機材が所狭しと並びけたたましい電子音が漏れ伝わる喧しくせわしない部屋
担当看護師長の事前レクチャーではとにかくやかましいから我慢してというものでしたが
実際は一人分のスペースがゆったりあり機材と言えば心電図、バイタル、サチュレーション用の例のやつ


気管切開してるので頭の後ろには吸引装置がスタンバイしてそのポンプの音が雨音の様で紛らわしい
頭は動かせず左足は膝までギブスシオーネ、首から2本左足から2本そして排尿の1本とチューブだらけ
おまけに術後の発熱で身体は火照ってなんだか息苦しくもありこれが何日間か続くのはほぼ地獄絵図
気切からは不定期にしかも頻繁に不純物を吸引してもらわないと生命にかかわってくるのでナースコール連発


意識だけは本当にしっかりしている私が本当に戦わなければいけない敵、実は伏兵の存在があったのです
目をつぶるとそこには4Kの総天然色で世にも不思議な光景が眼前に広がっていくことに気が付きます
地球上の風景では絶対有り得ない摩訶不思議な光景がスローモーションで展開していく中
右隣の空きベッドに手術を終えたばかりの患者が運ばれて来ていきなりせん妄防止チェックが入ります


名前は看護師さんが呼んでるのですぐ分かり次の本日の日付でさっそく引っかかってしまいます
それでも何度か繰り返す内に場所や生年月日はクリアするものの日付がどうしても引っ掛かってしまう
脳の手術を終えたばかりの様でなおさらこのテストはきちんとクリアしておかないといけません
正気でしかも覚醒しまくってる私の唯一自由な耳からこうした会話が一字一句鮮明に入ってきます


隣のオッチャンはテスト不合格につきなんと2時間おきに看護師さんから大声の追試を受ける羽目に
その内素っ頓狂な答えを繰り返すオッチャンと同じ順番でしかも大声で質問を繰り返す看護師さん
3回目あたりからいい加減我慢できなくなりますがいかんせん声を発することが出来ないので情けない
ジェスチャーだけでは通じずついに筆談用の紙とペンを要求し現状を訴えるも効果はなしの撃沈


一向に訪れない眠気と隣の今となっては騒音でしかない二人の会話と不思議で気持ち悪くもある幻想風景
だんだん自分が壊れていくのがしっかり実感できこのままでは大変なことになってしまう
そんな恐怖心が止めどなく沸き上がって来て目から大粒の涙さえこぼれ落ちて何とも情けない自分
とにかく気をしっかり保てと言い聞かし声には出ない知ってる歌を歌い続け何とか一夜を明かします


5歳年上のはずのオッチャンはいつのまにか6歳若くなって朝を迎えほどなく主治医がやってきました
祈るしぐさと眼差しでここから今すぐ出してくれオーラを発信しすると首を縦に何度も振ってくれ
病棟スタッフの全面的協力を得て私のICU脱出作戦がその日の午後決行させることになったのでした
大勢の方々に迷惑をかけてしまいましたが癌の上に気がふれたなんて洒落にもなりません


-- おかげさまで本日目出度く退院の運びとなり午後には我が家に戻れます --
今後は外来受診を通じて経過観察を行い再発モニターを行っていきます
失った歯の補填はおよそ2年後、患部の状況を見て最善の方法を取るという事です
口いっぱいに美味しいものを噛みしめることが出来るのはまだまだ先のようです