ESTA はElectronic System for Travel Authorization の略。観光ビザ免除対象国から
アメリカへ入国する観光客が、事前に専用Webサイトにて登録(有料)しておくと、出入国検査場
でスムーズな審査が受けられるというもの。

その昔、アメリカへの渡航には観光ビザの取得が必須だった。ましてや留学ともなるとけっこう
うるさい書類準備が必要で、大阪のアメリカ領事館へは何度か足を運んだ覚えがある。

その見返りといってはなんだが、当時の濃紺縦長パスポートのまっさらなページいっぱい、これ
見よがしに押された一年間有効のF-1ビザには、黄門様の印籠のような効力があるとさえ錯覚を
覚えたものだった。

そのうち、日本人ビザなし渡航が認められるようになってからも、引き続き以前と変わらない書類
の準備が必要で、個人旅行者の機内での恒例行事は継続するし、団体旅行者からは余計な手
数料が代理店へと流れていったのである。

そしてこのESTA のご登場である。あくまでも渡航前に準備しておかなければならないもので、そ
れでも忘れる人が大勢いたらしく、空港のJALチェックインカウンター傍に端末が用意されていた
のを見たことがある。それでも、導入当時は無料の『行為』だったので、まだましな方だった。

いつからかは忘れたが、Webサイトでのこの手続きに、どういうわけかUS$14という、証明発行
手数料が科せられるようになった。イミグレーション(出入国審査場)での手続きを簡素化してやる
から金を払えと言う訳で、いかにもアメリカらしいやり口である。

確かに、有料化された後の審査に於いて、あまりくどくどと質問される事がなくなり、両手の指紋
採取と顔写真の撮影以外、何しに何日滞在するのか?くらいの質問で終了し、最後はお得意の
" Have a good time !"で締めくくられる。現に荷物と共に外へ出るまでものの20分程だった。

以前は普通の観光客と英語のレベルが違うとみてとると、「あなたはエアラインのスタッフか?」
などという、すっとんきょな質問を投げかけてくることもあった。だったらどうなんだと、一度は聞き
返してみたかったが、そこで足止めされるリスクを考えると、「ノー」の一言で終わらせるのが賢明
な大人の行為であったはずだ。

生まれて初めてこの審査場を通った37年前のあの時の、心臓が今にも飛び出しそうなドキドキ感
をふと思い出し、思わず顔がほころびそうになった。