週末土曜日の夜9時、家内が運転する車の助手席でホロ酔い気分な私であったが、家内の携帯への1本の着信
で一気に素面の世界へ逆戻りするのであった。

電話の主はどうやら狼狽状態で、家内との会話がいっこうに捗らない様子。最初からこういう風に説明して
くれればよかったのだ。家内の母親が独居の実家にたった今、ドロボーが侵入したのだと...


この夜は久し振りに水入らずで外食した帰り、電話の主は何度もかけて寄こしたらしいのですが、不運にも
サイレントモードのまま店を出てきてしまい、それまで気が付かなかったようです。

すわっ、これは大事だと、そのまま再び車を発進させ実家へ急行するのでした。

事件発生からおよそ一時間半、実家には勿論既に最寄交番の警察官と所轄の鑑識が到着しており、家は普段
ではあり得ないほど煌々と灯りが灯っていました。

室内で母親の無事を再確認して傍に居たお巡りさんの説明を受けると、どうやら既にベッドに入って消灯した
あとの19時過ぎ(義母の就寝時間は恐ろしく早いのです)、まだ眠りに着いていなかった義母の耳にまずドア
チャイムの音が聞こえたらしいのですが、どうやらそのまま放って置いたそうです。

すると今度は、最近居住空間を寝室から移動させた居間の電動シャッターをゴトゴトといじる音が入って
来ては消えたかと思いきや、次は勝手口の方で違う物音がし始めたようです。窓の外から時折入って来る懐中
電灯の明かりがやたら不気味に室内を照らしていたそうで、おそらくここで義母は戸外でまさに侵入を試みよ
うとしている不法侵入者の存在を確認することができたのでしょう。

がしかし、この状況で老婆が一人取り得る行動の選択肢は殆ど無かったのは想像通りで、恐怖のあまりベッド
の中で金縛り状態ではなかったと察するところです。

事実、ドロボーには勝手口ドア上部にある大人一人が入れてしまうガラス窓からの侵入を許してしまったわけ
ですから、あとはもう布団を頭までかぶって寝たふりを決め込むしかなかったと思われます。

対するドロボーはすっかり留守宅へ侵入成功したものと思い込んでいたようで、義母が寝ている居間を素通り
して隣室へ入って行く様子がうかがえたそうです。一方、義母の恐怖ボルテージはMaxレベルに達していた
はずなのですが、ここで義母は想像を絶する驚愕の行動に出たのでした。


も~し、巡りさ~ん、
今隣の部屋にロボーが居るので
早くけて下さ~~い!!


既に暗闇に目が慣れていたとはいえ、ベッドからドロボーに気付かれずはい出し、なんと、足元のテーブル上
にある電話で110番ダイヤルし、しかも生涯一番の大声でSOSを発信したというのです!

この瞬間のドロボーの狼狽振りは計りかねますが、侵入した時に確保してあったであろう開錠させた勝手口
から辛うじて飛び出して行くのが関の山であったのは言うまでもないでしょう。


御年93歳、バリバリ戦前派の横浜のおばあちゃんが取った行動には賛否両論あるでしょうが、これだけ度胸
が座っているからこそ長生きもできるのだと、娘夫婦の姿を見て安堵の表情を取り戻した義母の顔をしばし
眺めていた私です。

ドシテラベナ、ドシテラベナ、ガラスの被害以外は何もなく、とにかく無事でなによりなおばあちゃんの
武勇伝でした。