SSブログ

未知との遭遇 [健康の抽斗]

い妖精に誘われるがまま、白いカーテンで囲まれた空間へと進んで行くと、ベージュの大きな革製
ソファへ腰かけるよう促され、言われるがままドップリと腰を落とし込んだ私。

胸の高まりは、これからここで始まろうとしている儀式への大きな不安と、そして、少しだけ顔を覗か
せている好奇心の証なのか。気が付くとその白い妖精はいつのまにか目の前から消え去っていた。

耳を澄ませるほどにドック、ドックという例えようもないその音は次第に小さくなっていき、どこから
ともなく聞こえてくる、バリトン・サックの長い1拍子の音色に取って代わられていた。

はてこの音色は?と、その正体を確かめてみようかと少しだけ体を斜めにしてみたところへ、あの
天使がトレイの様なものを提げ、再び私の目の前に現れたのである。


ひとつ、いかかが?」、さもそう言わんばかりにトレイからグラスを差し出すと、「ゆっくり飲み干し
てみてください。すぐ楽になりますから」。妖精はそう言って伏し目がちに私の足元に跪いた。

少しとろみと甘味のある赤味がかった液体に対する抵抗の様なものは私には不思議となく、言われる
ままゆっくりと喉の奥へと流し込んでいくのであった。

グラスの中の液体を飲み終えた後も私の身体に何ら変化は現われなかったことがさも当然かのように、
妖精は時折怪しげな笑みを浮かべ、今度は先ほどのトレイからスプーンを取り出し私の口元へと運んで
きた。

~~ン」、とは言わないものの妖精の目は確かにそう呟いていた。自然と大きく開かれた私の口の中
へ、そおっと銀色の物体を差し入れたかと思いきや、ポロっと舌の根元へ冷たいモノが落ちる。

「そのまま舌の上で溶けるのを待ってから飲み込んで下さいね」。そう言って妖精は私の前から再び消え
去ったのであった。何だか少しずつ喉の辺りがシビレてくるような感じがしてきて、無性に私の舌の上
のモノを噛み砕きたくなった。

冷たい感覚が無くなって大きなゴックンをしたその時、白い妖精はまた別のトレイを提げて私の足元へと
戻って来た。私の答えが全てイイエの問い掛けを終えたかと思うと、今度は細い注射器の針をそおっと
私の左腕三頭筋辺りに挿入し、ゆっくりと筋肉へ流し込んでいくのであった。

チクリとは感じたものの身体には未だ変化はない。ああ、ヤバイモノじゃなかったんだ、と安堵のような
もの覚えたその矢先、今度は細長いノズルのようなモノを喉元へと近づける妖精。

シュッと3度吹き付けられた液体を10秒後に呑み込んでと、唯一ハッキリと確認できる妖精の2つの眼が
一連の儀式のフィナーレを語っているようだったが、妖精は同じ事をもう一度私に繰り返させカーテン
の奥へと消えて行った。

あ、参りましょうか」。1分も経っただろうか、こちらへどうぞと言われるがままに皮のソファから
立ち上がった私は妖精の後に続きながら、ついにカーテンの向こうにある禁断の扉をくぐることになった
のだ。

妖精のように眼だけしか見えない数人の仲間たちが待ち受けており、その中でも一人、グリーンがかった
衣服をまとい、その手には黒く細長いホースのような奇妙な物体を握りしめた司令官風の男が私の前に
立ちはだかったかと思うと、次の瞬間、私の身体は突如として自由を失い、その後はもう彼の部下に従う
他ない私だった。

まな板の鯉となった私は、目の少し上側に設置された4.7インチ程のモニターから流れるYouTubeでも
いままでお目にかかったことのない奇妙な動画を、しばし見せつけられるだけであった。

というわけで、今年のピットインも無事終了し、取りあえず今のところ目立った要治療な異常は見当たら
ないという事でありました。


nice!(32)  コメント(8)  トラックバック(0) 
共通テーマ:blog

nice! 32

コメント 8

ma2ma2

人間ドックは五反田?にあるクリニックでしょうか?
キャバクラクリニックと言われている人間ドックがあるみたいですね(^^)
by ma2ma2 (2015-02-24 21:27) 

あるいる

過去に3度、胃カメラ検査をしました。
4度目は断りました。
それなりに精神的にも肉体的にも負担がかかるものですよね。
それにしても、横たわり眺めるモニター画面に映る自分の内蔵には驚きました。
はい、今食道ですよ、はい、胃に入りました、ここからは十二指腸ですよ~。
まるでバスガイドさんのような案内は面白いし、内蔵の色には見とれてしまいました。
と言いながらも、あの経験はもう沢山だと思っている僕でした。

by あるいる (2015-02-25 03:46) 

tommy88

胃カメラのお呼びがかかったことはなく、好みでもないですし。
もつ鍋が食えなくなりそうなのもイヤですし。
カプセルを飲んで放置しておけば観察してくれる時代だと思うし。
ミクロの決死圏のような診察方法が楽で良いと思います。
社長はそういうプレイが好みのようですから、羨ましい限りです。
私はセーラー服でないと駄目です。
by tommy88 (2015-02-25 05:50) 

りんご

映像を見てるんですね。全身麻酔タイプかと
想像しながら読み進めておりました。
胃カメラもバリウムも出来ることなら
もうやりたくないです・・・。
異常がなくてよかったですね^^。
by りんご (2015-02-25 13:38) 

Lonesome社っ長ょぉ〜

ma2ma2 さん

そういうモノが存在するとは、さすが五反田です。
東京のとある場所にあるまっとうな病院で、もう15年になるでしょうか。
設備とサービスは昔に比べだいぶよくなりましたよ。
by Lonesome社っ長ょぉ〜 (2015-02-25 21:19) 

Lonesome社っ長ょぉ〜

あるいる さん

新しい設備になってからレントゲン撮影がポールダンスの如く、
かなりアクロバティックとなってしまいました。2回に1回はなんだ
かんだと難癖をつけられてはカメラを飲まされていましたので、
レントゲンの追加オプションとなったカメラを5年前から選択して
います。すっかりコツを覚えてしまったのか、今では余裕の検査ですよ。
結果もその場で大体分かるので安心です。ライブ映像を見ていると、
どうしても焼肉屋さんで肉が盛られた銀色の皿が被ってきてしまいます。
by Lonesome社っ長ょぉ〜 (2015-02-25 21:28) 

Lonesome社っ長ょぉ〜

tommy88 さん

リクエストで胃カメラを飲むようになってから5年、昨年辺りから
どうやらコツを掴んでしまったようで、今ではこうした喉の部分麻酔の
段階から検査までを楽しむように心がけています。O社の飲むカメラは
画期的ですが、保険適用となったケースでないと、翌朝のトイレで
水を流す勇気が涌いて来なさそうです。胃カメラプレーの醍醐味を一度
はご経験ください。先生の口からセーラー服という単語が飛び出すと、
やけにリアリティーが在り過ぎです。
by Lonesome社っ長ょぉ〜 (2015-02-25 21:37) 

Lonesome社っ長ょぉ〜

りんご さん

一時間程効果のある喉の部分麻酔で検査しています。あんなモノが
身体の中へ入って行くのですから、やはりたまったものではありません。
ドック終了後はドッと疲れが噴出してきますね。最高の健康法はストレス
を消去する事と、明確に答えが分かり切っていても、どうしようもないと
いうのは誠に辛いです。
by Lonesome社っ長ょぉ〜 (2015-02-25 21:43) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。