SSブログ

タフ・ネゴシエイション [旅の抽斗]


この人たちと一緒に旅行すると必ず何か事件が起こるのは何故だろう?
前回栄えある100号記念記事で登場のグループと、これまた数年前にシリコンバレーへ視察旅行に
行った時のお話です。

シリコンバレーの玄関口、サンノゼへは残念ながら最後の破産法申請エアラインとなったアメリカン
航空で成田から直行です。
このツアーはお偉い方を団長に、けっこう年配の人が参加するので、毎回ちゃんとコンダクターが
同行するというわりと豪華な内容なんです。 旅行中の飲食は全てタダで、特に食事の際の
アルコールも全てフリーと言うのが我々呑んベイには至極たまらんものでした。

シリコンバレーだけでは間が持たないので、近隣のスタンフォード大学や、はたまたサンフランシスコ
にも滞在するという行程で、これまたおかげで留学時代の懐かしい思いまでさせて貰いました。
ところが、事件はほどなく全行程を終了して、いざサンノゼ空港から成田へ向け帰国の途に就こうか
という時に起こったのです。

搭乗時刻近くになって、機材の到着が遅れるので出発を延期する旨のアナウンスがあり、まあ
アメリカなら日常茶飯事だわと、半ば諦めムードで引き続き待合所のソファーへと腰かけました。
しかし、待てどくらせどいっこうに我々の飛行機はやって来ません。
とうとう挙句の果て、機材の都合がつかなくなったため本日の成田行きは欠航になるという何とも
無情なアナウンスが、それも英語のみで流されました。

事態の重大さにこの時、勿論気付いていなかったおっちゃん・おばちゃんたちを前に、添乗員さんが
事情説明を行い、今晩もう一晩サンノゼ空港近辺に宿泊することになったので、その手配の間暫く
階下の到着ロビーで全員待機することになり、ゾロゾロと民族大移動を行います。

 

アメリカでは一般的に、航空会社の都合や落度で欠航便が出て宿泊を伴う場合、宿泊と食事の
クーポンが発行され、これで勘弁してねと言う具合になります。もちろん、その航空会社のメンバー
だとランクによっては、もう少しマシな対応はして貰えたでしょうが、我々一見さんの、しかも、文句の
少ない日本人旅行者なら、なおさら軽くあしらわれてしまうのです。

その憂いき目に遭っていそうな添乗員さんを助けて来てほしいと、団長に頼まれてアメリカン航空の
カウンターで彼と合流。案の定、係りから一人当たり一泊分の宿と$10のミールクーポンだけで
危うく丸め込まれようとしていました。よかった、間に合ったかと、ここで選手交代です。

  「ホテルと空港の往復の足はどうなるんですか?」
  「ホテルのシャトルバスがあるから、それに分乗して乗ってください」
  「お年寄りがたくさん参加しているツアーだから、大型バス一台お願いしたのですが」
  「そっ、それはできませんよ!」
  「それに一人$10のミールクーポンで夜と朝食食べろと? $20に倍増してほしいです」
  「そっ、そんなこと出来るわけがないでしょう。会社の決まりなんですから!」
  「私達だって好き好んでここに居るわけじゃあありませんよ。日本へ帰れないんですよ。

  「無理です。
できません!!」
  「そんなこと言わないで。じゃあわかった。ホテルに手配してそのシャトルバスを何往復かして
   もらって、取りあえずここから脱出させてください。年寄りが疲れ果ててるんで。」
  「それは申し訳ない。シャトルバスの件は了解しましたので、今すぐに手配しますが、明朝の大型
   バスと$20は難しいですよ。私の一存では!」
  「難しいかぁ.......。」
                        
                         中略
   
 
 「では、私も大変疲れたのでホテルへ行きますので、あなたのボスとの話し合いの結果を
   ホテルの私の部屋へ連絡下さいね」

すっかり外は夜となってお昼から6時間余り、みんなで空港に缶詰になっていたところを、ようやく
ミニバンのシャトルで結局5回(2台提供してくれました)、無事全員移動完了してチェックイン
出来たのでした。 この移動にはおよそ1.5時間程を消費。

私もチェックインするや否や、先程の交渉相手から早速電話がかかってきました。

  「もしもし、あなたには参りました。では明朝のコーチ(大型バス)と$20もオーケーが出たので
   これからクーポンをもってそちらに伺います。
  
「あなたのご厚意は一生忘れません。神のご加護を」

クーポンを貰って腹ペコの皆とホテル内のレストランへ移動。時間は8時をすっかり回っていました。
インド人がオーナーのテナントのイタ飯屋さん。$10で何が食べられるのかと聞くと、「ありません。
差額を払えばなんでもどうぞ。」と、そっけない答えが返ってくる。

そこへ団長が私に近づいて来て一言耳打ちします。

  「足らない分は旅行社に出させりゃいいんだから、とにかく早く注文しよう。みんな腹ペコ!!」

それを見ていた添乗員さん、団長が店内へ消えたのを見届けると私の所へやって来て

  「オーナーと交渉して何とか一人$10で食事出来る様にしてくれませんか?明日の朝食の分
   $10残しておきたいので、なんとかお願いしますぅ。」

今にも泣きそうな顔でしたが、そこは私も鬼になって

  「ワインぐらいは自腹切ってくださいよ! あとは何とかしますから」

と言いながら、あんたらいったい何やってんのとばかり、不思議そうに私たちを傍観していたその
インド人オーナーへきびすを返すなり、今度はメニューの交渉開始です。

  「ねぇ、一人$10でパスタにサラダとパンつけてよ
  
「御冗談を。パスタだけでも、うちは$12頂いてるのに、そんなことしたら大赤字ですよ!!」

まさに、インド人もビックリだった。[わーい(嬉しい顔)]

  「ワイン4・5本注文するからさぁ...。 それに28人もいるしぃ...。」
  
「・・・・・・・・・・   」

無言のオーナーの肩を " Deal ?" と言ってポンっ、と叩き、店内へ先に入ろうとした私の後方から

  「パンにはバターは付けませんからねっ!」 [ちっ(怒った顔)]

けっこう細かいなぁ [ふらふら]

かくして、サンノゼの長~い一日が終わったのでした。

 

翌朝の朝食も残りの$10で全員無事に済ませ、約束していたコーチも時間通りにホテルへ
ピックアップに来てくれ、事はスムーズに運んでくれました。コーチの運ちゃんには気の毒だったので
男衆で荷物の出し入れを手伝ったところ、「日本人は素晴らしい」と、称賛の声までいただくことに。

出発カウンター前は二日分の搭乗客でごった返し、チェックインの長い行列が出来ていました。
順番を待つ間に向こうのカウンター越しに誰かが私に手を振ってくれています。
昨日、私と係りの男性との交渉事を傍で聞いていた年配の女性スタッフでした。

運よくチェックインはその女性スタッフ担当のカウンターになって、チケットとパスポートを差し出すと
「昨日は大変だったわね」と、労いのお言葉をいただくことに。「おかげで様で助かりました。あの
係りの男性にも宜しく伝えてください」と、言い終わるなり彼女が、「今日の空席状況は昨日の事も
あるのでまだ分らないけど、もし空いてたらあなたをファーストクラスへアップグレードしてあげるから

と、嬉しい事を言ってくれるではありませんか。でも、素直には喜べない理由がそこには....。

 

全員なんとかボーディングパスをゲットし搭乗口へと移動し、今度は本当に出発を待つだけと
なりましたが、私にはもう一つ仕事が残っていました。
別のスタッフから搭乗口にて待つように言われ、憧れのファーストクラスのボーディングパスを貰うべく
カウンター横にあった液晶のシートアレンジ画面に、何故か添乗員さんと見入っていました。

搭乗客がボーディングパスを改札機械に通すと、その人のシートの色が変わって行くと言う代物。
搭乗時間が迫りツアーの面々は先に着席していましたので、残るは我々とまだ見ぬ搭乗者。
画面をちら観するとファーストにはまだ一席だけ空席があるではないですか!
人影もまばらになり出し、そろそろゲートクローズかと思ったその時でした。

ハンドキャリーのバッグを引きずりながら、颯爽とこちらへと向かってくるスレンダーの東洋人女性。
身なりがきちんとしていたのでもしやと、思ったのですが直ぐに、「いやいや、ビジネスクラスだよ
きっと」と、収拾のつかない独り言が口から出てきます。
そして彼女がボーディングパスをついに機械に通した時、私の脈拍は最高潮に達しました。

あ~あ、しかし人生そんなに甘くはない。無情にもその最後の一席は違う色へと変化して行った
のでした。「ぎりぎりまでラウンジかぁ、フゥ~。」
「ビジネスに空きがありますからそちらへどうぞ」と、私を覚醒させるスタッフのやさしい声。

添乗員さんとそのボーディングパスを持って団長さんの席へ行き、ゲットしたビジネスクラスへ移動
するようにと促し、それを手伝う謙虚な私。
もしファーストだったら団長、きっと腰抜かしただろにと想いながら家内がとなりで待つ元の自分の
座席へと戻ったのでした。

 


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:blog

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。