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鉄道の旅‐深セン~長沙 [旅の抽斗]

昔、中国へ出張した際に一度だけ夜行寝台列車に乗ったことがあります。
目的地は湖南省の大都市長沙です。香港からKCRで終点『羅湖』へ行き、国境を2度超えて深セン
に入り、深セン駅から緑色のいかにも重そうな客車に乗って行きます。名目は一応同じ湖南省省都
の武漢行き急行列車ですが、ディーゼル機関車に牽引されおよそ時速60キロぐらいしか出ていない
様な感じの長~い列車でした。

客車は3段ベッドが向かい合わせとなった6人乗りコンパートメントの2等車。3人の香港人と私の4
名がまず乗り込みました。彼ら曰くこの路線はドル箱らしく、苦労して切符を手に入れたんだと豪語
してましたので、きっと頭と何やらをたくさん使ったのですかね!?
残りの2つのベッドはどうやら次の停車駅の広州駅から埋まりそうだと、強面の女性の車掌さんが
教えてくれました。

日本ではまったく寝台列車に乗った経験がなかったので、何だか子供のように胸がワクワクしてくる
感じがしました。コンパートメントは3段ベッド2つの割にはそんなに窮屈ではなく、特に私が割り当て
られた下段は体を起こしても頭が上の段に閊えるようなことも無く、しかもベッドの幅も適当に大きくて
想像以上の環境が提供されました。シーツも薄暗い蛍光灯の車内でしたが『白く』、糊も利いていそ
うな感触だったように記憶しています。窓の所にあるテーブル上には中国らしい、あちこち凹んだ旧式
で花柄の魔法瓶が置いてあったのがとても印象的でした。確か私が小さい頃に似たような物があり
ましたっけか。

広州まではおよそ3時間で到着します。車内放送や駅構内放送は全く無く、静かに列車はホームへ
と入って行き、そして大きな揺れと音と共に停車します。列車は暫く停車していそうな感じだったので
先に降りた友人の手招きもあったので、ほのかな期待と興味深々でプラットホームへ出てみることに
しました。昔の日本のように駅弁とやらは果たして売っているのかどうかと。

何と期待を裏切らないことか!

有りました有りました、一応キオスクみたいな販売店が。ちょっと褒め過ぎか?
販売小屋で何やらぶっかけご飯の様なものが売られているではありませんか。と、よく見ると友人が
既に何やらオーダーしていたようで、チキンオンザライス、豚の旨煮オンザライス、そして青菜オンザ
ライスをゲット。早めの夕食は皆で済ませて来たものの、こういうのを見せられた日には小腹も空いて
来るというもの。列車に戻り早速ご相伴にあずかることに...。

普通の日本人(?)なら恐らく躊躇していたところでしょうが、そこはそれ、昔トンガンとの共同生活で
培った経験をフルに発揮して、その場に充分溶け込んでいたようでした。
夜食の途中でどうやら列車が動き出したようで、どうも食べる方に気を取られていたみたいです。
残念ながら当時は未だペットボトルなる物も無く、ましてや日本の様なあのお茶パックも勿論無かっ
たので、窓の下のテーブルにあるあの魔法瓶の中の『お湯』のお世話になりました。そう言えば中国
の人は皆、好みの茶葉が入った蓋付のマイ・瓶を持参していますもんね。

お腹も再び満たされてどうやら私はウトウトとしたみたいでしたが、どこの駅だかは覚えていませんが
私達のコンパートメントに、どうやらやって来るべきお客さんがやって来たようで、その話声で目が覚
めたようでした。よく目を開けて見てみると、その客人はカーキ色の軍服を着た大柄の人で、どうやら
終点の武漢まで行くとのことでした。初めて間近に見る紛れもない人民解放陸軍兵士です。

職業とは正反対のよくしゃべりよく笑う軍人さんで、すっかり私の友人たちと意気投合したみたいで
夜中の深い時間まで何やら話し込んでいました。その間私は小さい方の用を足そうと初めてのお使
いならぬ、初めての中国鉄道トイレ体験を行なうために車内を移動してみました。殺風景で非常に簡
素な中国式のトイレで、連結器の傍にあることから平衡を保つのに酷く苦労し、的を外さない事だけ
にとにかく集中しました。この後やって来るであろう大きな方の用は、どうやらホテルに着くまで諦め
た方が良さそうだぞと、脳に言い聞かせながらちょっと疲れてベッドへと戻りました。

すっかり夜が明けたところで室内の話声で目が覚め、食堂車へブレックファストを食べに行こうと、
なんと元気な軍人さんが私たちを誘っているではありませんか!
そうです、この列車にはちゃんと食堂車が連結されていたのです。何両かをやり過ごして一同4人
掛けテーブルが通路を挟んで両側に並んだ食堂車にやって来ました。

どうやら軍人さんがご馳走してくれるという事で、セットメニューのモーニングをいただくことに。
きめが粗めのトースト、茹で卵、牛乳、そしてインスタントコーヒーという面子のブレックファスト。締め
ておひとり様5元だったと思います。当時のレートで1元=¥18ぐらいでした。
しかしです。この軍人さんに友人の一人が給料のことを質問した時、ひと月200元だと言ってたので
5人×5元=25元は彼にとって大変な出費だったに違いありません。

にも拘らず彼は満面の笑みを浮かべ得意げに、中国鉄道も捨てたもんじゃあないだろうと言わんばか
りに、外国から来た旅行者を精一杯もてなしてくれたのでした。

コンパートメントへと戻ると列車はそろそろ目的地長沙へと近づいていて、降車の仕度を始めたところ
で、香港の羅湖駅で買っておいたセブンスターがカバンの中にあるのに気付き、急ぎカートンの封を
解いて2・3箱だったと思いますが、日本のたばこだと言って食事のお礼に軍人さんに手渡しました。
本当に嬉しそうに受け取ってくれ、何度も『シェイシェイニ』と言ってくれたのでした。


彼は両切りの中華煙草でしたので少々物足りなかったかもしれませんが、きっと武漢の駐屯地で
仲間を前にセブンスターを見せながら、あの満面の笑顔と笑い声でこの寝台列車の旅の話を聞かせ
ていたに違いありません。


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