我が家、そして新たな旅立ち

狩人よりも大切にされてることは久し振りの実家へ戻った時から分ってるって。

ああ、愛しい日本食よ。そして、毎日がご馳走、ご馳走、そしてまたご馳走。
やっぱり我が家はいい。やっぱり自分の部屋がいい。
土産物も全て行くべきところへ行った後のある日、床に大の字になって、天井を見つめながら
来るべき家族会議に向けたプレゼンの準備を、命令もしていない脳が勝手に始めだした。

結論は出ている。アメリカの大学へ行くということだ。
しかし、どこの大学で実際何を専攻するんだ？
天井が少しずつグルグルと回りだした様で妙な気がした。
それよりも、今の自分の英語力で果たして合格できるのか？
さっきよりもはるかに回転速度が速くなった。

案ずるよりもするが如し

夕げの香りに誘われて階下の食卓へ向かうと、珍しく家族全員揃っているではないか。
ん？　そうか、今日は日曜日だったか。
何もしていないと曜日感覚がなくなるというのはこう言うことだったのか。

「俺、ハワイへ戻るわ。」

なんという貧疎で陳腐なフレーズなんだ。これが用意したはずのプレゼンか？
「いつ出発や？」親父だった。

既に帰国前にチャッカリ再入学と再渡航の書類をハワイで準備してあったので
あとは領事館で学生就学ビザを貰うだけの簡単な準備で終了。

ちょっとでも親のすねのヘリが少なくて済むよう、当時では最も安価であったであろ
大阪発ソウル経由ホノルル行き大韓航空のチケットをゲットしていた。
２年目の新学期に合わせて再び伊丹空港に家族と共に現れたのだが
あいにく春の嵐の大荒れ模様で、ソウル行きは大幅なディレーを余儀なくされていた。
見送る方も見送られる方もいささかぐったりと来た５時間後にようやく、一時間後の
出発を知らせる場内アナウンスがあった。航路上の天候が回復に向かっているらしい。
これから進むいばらの道への門出には最もふさわしい状況ではないか。

疲れ果てた家族に見送られ何とか機内へ。せっ、狭い！同じボーイングでも727であった。
そう、よど号と同じ。
機内へ入って行くと同時に、私の目の中に飛び込んできた光景は驚くばかりのしろ物。

辺り一面、新婚さんいらっしゃ～～い！

貰った席はアイルサイドでお隣の２席は勿論、新婚さ～ん。
よりによってこんな日に新婚旅行とは、未来予想図ではないかいな！？
そんなこと言っちゃあいけないよな。かわいそうに。
人生楽ありゃあ苦もあるさの教訓を胸に、機はようやくソウルへ向け離陸した。

伊丹からソウルまで順調だと２時間弱で到着するのだが、そうではないように感じた夜だった。
確かに雨雲のはるか上を飛行してるくせに、どうしてこんなに揺れるんだ？
それよりもこの揺れの中、積んだものは出さなきゃあだめだと言わんばかりに
右にヨレヨレ、左にヨロヨロ。でも何とか機内食を乗客へと孤軍奮闘するKALのお姉さんたちには脱帽。
しかし、せっかく運ばれたものに手を付けることができた者があの中にどれくらいいただろうか？
私はしっかり食べた。

悲鳴と嗚咽が飛び交う中、何とか金浦空港にたどり着いたときはすでに日付が変わろうとしていた。
幸いなことに乗継便はしっかりと我々の到着を待っていてくれ(悪天候のため同じく飛べなかった)
駆け足で機内へと向かった。今度はジャンボだ。少々の事ではビクともせんだろう！？

甘かった！！　雨は小降りになっていたが台風の様な風が吹いている。
何とか飛び立ったがいつまでたってもベルト着用のサインが消えない。
それどころか、図体が大きい分揺れも正比例するのだった。
CAのすぐ前に座っていたが、彼女はしばらく手を口に当てたまま微動だしなかった。
気になって「大丈夫か」と声をかけたところ、かすかに頭が上下に動いたような気がした。
「ケンチャナ・ヨ」ということか。
先ほどの新婚さんたちの事も気になり、あたりをキョロキョロしてみたが薄暗い中では
どういう状況なのかわからない。ただ、引き続き悲鳴と嗚咽は聞こえてきたが、いつのまにか
夢の中の出来事になっていたらしい。どこまで図太いんだ。私の神経は？

朝食を配るＣＡのたどたどしい日本語で目が覚めた。
昨日の事は本当は夢だったのか？
そう思わずにはいられないほど窓の外の景色は素晴らしかった。

よっっしゃ～ぁ、帰ってきたぞ。
明日から必死のパッチで頑張るどぉ～～。